大判例

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東京高等裁判所 平成7年(行ケ)299号 判決 1997年12月09日

アメリカ合衆国

ニューヨーク州 11716-2417 ボヘミア ウィルバー プレイス 116

原告

シンボル テクノロジイズ インコーポレイテッド

同代表者

ダニエル アール マック グリーン

同訴訟代理人弁護士

松尾和子

同訴訟代理人弁理士

大塚文昭

竹内英人

同訴訟代理人弁護士

飯田圭

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官 荒井寿光

同指定代理人

丸山光信

菅野嘉昭

及川泰嘉

小池隆

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

この判決に対する上告のための附加期間を90日と定める。

事実

第1  当事者の求めた裁判

1  原告

「特許庁が平成5年審判第19472号事件について平成7年6月30日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決

2  被告

主文1、2項と同旨の判決

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告は、米国における1980年2月29日付け特許出願に基づく優先権を主張して、昭和56年2月28日に特許出願し(昭和56年特許願第29292号)、同特許出願からの分割出願として、平成2年3月22日、名称を「手持ち式バーコード読み取り装置」とする発明(以下「本願発明」という。)につき特許出願(平成2年特許願第73168号)したが、平成5年7月7日に拒絶査定を受けたので、同年10月4日に審判を請求した。特許庁は、この請求を平成5年審判第19472号事件として審理した結果、平成7年6月30日、「本件審判の請求は、成り立たない。」(出訴期間として90日を附加)との審決をなし、その謄本は、同年8月23日原告に送達された。

2  本願発明の特許請求の範囲第1項

(a)  射出口と手で把持するためのハンドル部とを有する手持ち式レーザ走査ヘッド;

(b)  前記レーザ走査ヘッドに支持されてレーザ光を発生する半導体レーザダイオード;

(c)  前記レーザダイオードのための低電圧供給源;

(d)  前記レーザ走査ヘッドに支持され前記レーザダイオードからのレーザ光を光路に沿って前記射出口からヘッド外部に射出させ前記射出口から外方に間隔をもった位置で前記レーザ光を合焦させてレーザ走査ヘッドの外部に該走査ヘッドから離れて置かれたバーコード記号に当てる光学手段;

(e)  前記走査ヘッド内で前記光路内に配置され前記レーザ光をバーコード記号に対して走査方向に振らせるための走査手段;

(f)  前記走査ヘッドに支持され前記バーコード記号により反射された光ビームを検出して反射光ビームの強さを表わす電気信号を発生する検出手段;

(g)  前記電気信号をデコードして前記バーコード記号を読み取るデコード手段;

からなり、

(k) 前記検出手段は、バーコード記号により反射され前記走査ヘッドの前記射出口から射出されるレーザ光の射出方向にほぼ沿った方向で前記走査ヘッドに到達する光ビームを検出する位置に設けられ、前記走査ヘッドを手に持って前記射出口をバーコード記号に向け前記射出口から射出されるレーザ光がバーコード記号に当たるのを視認しながら該バーコード記号の走査を行うようになった;

ことを特徴とする、前記走査ヘッドを前記バーコード記号から離れた位置に保持してバーコード記号の読み取りを行なうようになった手持ち式のバーコード読み取り装置。

3  審決の理由の要点

(1)  本願発明の要旨

本願発明の要旨は、明細書及び図面の記載からみて、次のとおりであると認める。

「(a) 射出口と手で把持するためのハンドル部とを有する手持ち式レーザ走査ヘッド;

(b) 前記レーザ走査ヘッドに支持されてレーザ光を発生する半導体レーザダイオード;

(c) 前記レーザダイオードのための低電圧供給源;

(d) 前記レーザ走査ヘッドに支持され前記レーザダイオードからのレーザ光を光路に沿って前記射出口からヘッド外部に射出させ前記射出口から外方に間隔をもった位置で合焦させてレーザ走査ヘッドの外部に離れて置かれたバーコード記号に当てる光学手段;

(e) 前記走査ヘッド内で前記光路内に配置され前記レーザ光をバーコード記号に対して走査方向に振らせるための走査手段;

(f) 前記走査ヘッドに支持され前記バーコード記号により反射された光ビームを検出して反射光ビームの強さを表わす電気信号を発生する検出手段;

(g) 前記電気信号をデコードして前記バーコード記号を読み取るデコード手段;

からなり、

(k) 記検出手段は、バーコード記号により反射され前記走査ヘッドの前記射出口から射出されるレーザ光の射出方向にほぼ沿った方向で前記走査ヘッドに到達する光ビームを検出する位置に設けられたことを特徴とする手持ち式バーコード読み取り装置」

なお、特許請求の範囲第1項には、上記2項のとおり記載されているが、「前記走査ヘッドを手に持って前記射出口をバーコード記号に向け前記射出口から射出されるレーザ光がバーコード記号に当たるのを視認しながら該バーコード記号の走査を行うようになった」こと及び「前記走査ヘッドを前記バーコード記号から離れた位置に保持してバーコード記号の読み取りを行なうようになった」という構成における「手で持って」、「視認しながら」及び「保持して」の表現は手持ち式バーコード読み取り装置の人による使用形態の表現であるので、これらの構成は物の発明である本願発明の構成に欠くことのできない事項とは認められないので、上記のように認定した。

(2)  引用例

<1> 実願昭52-160885号(実開昭54-87751号)のマイクロフィルム(以下「引用例1」という。)には、以下の事項が記載されている。

ⅰ.第1図(別紙図面第1図参照)に示された光学走査装置では、「ケース」内に「回転体(2)」、「反射鏡(3)」、「レーザ発振器(5)」、「ハーフミラー(6)」、「反射鏡(7)」、「受光素子(9)」、「モーター(10)」、「電源部(11)」を「ケース」内に配置し、「バーコード解読器(12)」を別置して、「モーター(10)」で駆動される正六角形又は正八角形の断面を有する「回転体(2)」の各辺に「反射鏡(3)」をそれぞれ貼付け、回転している「反射鏡(3)」に「レーザ発振器(5)」からの光を「ハーフミラー(6)」を介して照射して光を振らせることにより、「バーコード(1)」上を走査し、この反射光を「反射鏡(3)」、「ハーフミラー(6)」、「反射鏡(7)」及び「集光レンズ(8)」を介して「受光素子(9)」に戻すようにしている。

ⅱ.第2図(別紙図面第2図参照)に記載された光学走査装置では、「ケース」内に「回転体(2)」、「反射鏡(3)」、「レーザ発振器(5)」、「ハーフミラー(6)」、「反射鏡(7)」、「受光素子(9)」、「モーター(10)」を「ケース」内に配置し、「電源部(11)」と「バーコード解読器(12)」を別置して、ケーブルで接続し、「モーター(10)」で駆動される正六角形又は正八角形の断面を有する「回転体(2)」の各辺に「反射鏡(3)」をそれぞれ貼付け、回転している「反射鏡(3)」に「レンズ系(4)」で収束された「レーザ発振器(5)」からの光を「バーコード(1)」上に走査し、この反射光を「受光素子(9)」に戻すようにしており、また、「ケース」が「レーザ発振器(5)」からレーザ光を射出する開口及び、手で持つための把手部分を有している。

なお、第1図からみて、第1図に示された装置において、開口から所定間隔離れた位置にある「バーコード(1)」に照射光を照射し、照射光に対して平行な反射光を検出していると認める。また、引用例1の第2図の発明において「レーザ発振器(5)」の電圧が高いという旨の記載があり、この記載からみて「レーザ発振器(5)」がレーザ管であると認める。

<2> 特開昭53-3736号公報(以下「引用例2」という。)には、「レーザ(13)」から出たレーザ光をバーコードに当て、その反射光を「光電変換検出器(30)」で受光し、光電変換する光学読取装置において、「レーザ(13)」の光源としてGaAlAs等の半導体レーザを使用することが記載されている。

(3)  本願発明と引用例1の発明との対比

本願発明と、引用例1に記載された発明のうちの第2図及びそれに関連する記載箇所に記載された発明(以下「引用例1第2図の発明」という。)とを比較すると、引用例1第2図の発明の「把手部分」、「レーザ発振器(5)」、「ケース」、「反射鏡(3)」、「受光素子(9)」、「バーコード解読器」はそれぞれ本願発明の「ハンドル部」、「レーザー光源」、「走査ヘッド」、「光学手段」、「検出手段」、「デコード手段」に相当し、引用例1第2図の発明の「回転体(2)」及び「モーター(10)」は本願発明の走査手段に相当するから、両者は、

「(a) 射出口と手で把持するためのハンドル部とを有する手持ち式レーザ走査ヘッド;

(b) 前記レーザ走査ヘッドに支持されてレーザ光を発生するレーザ光源;

(c) 前記レーザ光源のための電源;

(d) 前記レーザ走査ヘッドに支持されて前記レーザ光源からのレーザ光を光路に沿って前記射出口からヘッド外部に射出させ射出口から外方に間隔をもった位置で前記レーザ光を合焦させて前記レーザ走査ヘッドの外部に置かれたバーコード記号に当てる光学手段;

(e) 前記ヘッド内で前記光路内に配置され前記レーザ光をバーコード記号に対して走査方向に振らせるための走査手段;

(f) 前記ヘッドに支持され前記バーコード記号により反射された光ビームを検出して反射光ビームの強さを表わす電気信号を発生する検出手段;

(g) 前記電気信号をデコードして前記バーコード記号を読み取るデコード手段;

からなり、

(k) 前記検出手段は、バーコード記号により反射されて前記走査ヘッドに到達する光ビームを検出する位置に設けられたことを特徴とする手持ち式バーコード読み取り装置」の点で一致し、次の点で相違している。

<1> 本願発明では、走査ヘッドから離れて置かれたバーコードにレーザ光を当て、走査ヘッドから射出されるレーザ光に対してほぼ平行な方向に前記走査ヘッドに到達する光ビームを検出するのに対し、引用例1第2図の発明では、走査ヘッドから比較的近い位置に置かれたバーコードにレーザ光を当てており、また走査ヘッドから射出されるレーザ光の方向と検出される光ビームの方向がほぼ平行であることは明記されていない点(以下「相違点<1>」という。)。

<2> 本願発明ではレーザ光源として半導体レーザダイオードを用い、そのための低電圧電源を設けているのに対し、引用例1第2図の発明ではレーザ光源としてレーザ管を用い、そのための高電圧電源を設けている点(以下「相違点<2>」という。)。

(4)  容易性の判断

<1> 相違点<1>について検討すると、走査ヘッドから離れて置かれたバーコードにレーザ光を当て、走査ヘッドから射出されるレーザ光に対してほぼ平行な方向に走査ヘッドに到達する光ビームを検出することは当該技術分野で周知な事項である(例えば、引用例1の第1図及びそれに関する記載、実願昭50-27494号(実開昭51-108527号)のマイクロフィルム、実願昭50-27495号(実開昭51-108528号のマイクロフィルム参照)ので、走査ヘッドから離れた位置のバーコードにレーザ光を当て、引用例1第2図の発明において、走査ヘッドの外部に離れて置かれたバーコードにレーザ光を当て、走査ヘッドから射出されるレーザ光に対してほぼ平行な方向に走査ヘッドに到達する光ビームを検出するように検出手段を支持することは当業者が容易に考えられることであり、相違点<1>が格別のものとは認められない。

<2> 相違点<2>について検討すると、レーザ光源として半導体レーザダイオードを用いることは引用例2に記載されて公知であり、また、引用例1に記載されているようにレーザ管の電源電圧は高電圧であるから半導体レーザダイオードの電源電圧がレーザ管の電源電圧よりも低いことは当業者が容易に推考できることであるので、引用例1第2図の発明において、レーザ光源として半導体レーザダイオードを用い、その電源電圧を低電圧にすることは当業者が容易に考えられる事項であり、相違点<2>が格別のものとは認められない。

(5)  むすび

上記のとおりであるから、本願発明は、引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものと認められるので、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

4  審決を取り消すべき事由

審決の理由の要点(1)のうち、本願発明の特許請求の範囲第1項の記載については認めるが、その余は争う。同(2)<1>、<2>は認める。同(3)のうち、一致点の認定は認める(但し、(d)の点は争う。)。相違点の認定のうち、<1>は争い、<2>は認める。同(4)<1>は争う。同(4)<2>は認める。同(5)は争う。

審決は、本願発明の要旨の認定を誤り、引用例1第2図の発明を誤認して相違点<1>の認定を誤った上、相違点を看過し、かつ、相違点<1>についての判断を誤って、本願発明の進歩性を否定したものであるから、違法として取り消されるべきである。

(1)  本願発明の要旨の誤認(取消事由1)

<1> 審決は、「(本願発明の特許請求の範囲第1項の構成要件(k)中の)「前記走査ヘッドを手に持って前記射出口をバーコード記号に向け前記射出口から射出されるレーザ光がバーコード記号に当たるのを視認しながら該バーコード記号の走査を行うようになった」こと及び「前記走査ヘッドを前記バーコード記号から離れた位置に保持してバーコード記号の読み取りを行うようになった」という構成における「手に持って」、「視認しながら」及び「保持して」の表現は手持ち式バーコード読み取り装置の人による使用状態の表現であるので、これらの構成は物の発明である本願発明の構成に欠くことのできない事項とは認められない」として、これらを除外して、本願発明の要旨を上記3(1)のとおり認定しているが、誤りである。

本願発明の要旨は特許請求の範囲第1項に記載のとおりである。

本願発明の基本的な特徴は、手持ち式のバーコード読み取り装置であること、当該装置を手に持って走査ヘッドの先端をバーコード記号から離れた位置でバーコード記号に向けて使用することができること、及び、走査ヘッドの射出口から射出されるレーザ光がバーコードに当たるのを使用者が視認しながら操作を行うことができることにある。

本願の特許請求の範囲第1項の構成要件(a)は、本願発明の装置が射出口と手で把持するハンドル部とを有する手持ち式であることを表しているが、構成要件(a)は、構成要件(k)、特にその後半に記載された部分、すなわち、走査ヘッドを手に持って射出口をバーコード記号に向け射出口から射出されるレーザ光がバーコード記号に当たるのを視認しながらバーコード記号の走査を行うようになったということと組み合わされて初めて、本願発明の技術的思想の表現として意味を持つようになるものである。また、構成要件(k)の前半に記載された部分、すなわち、バーコードを読み取る検出手段が、バーコード記号により反射され、走査ヘッドの射出口から射出されるレーザ光の射出方向にほぼ沿った方向で走査ヘッドに到達する光ビームを検出する位置に設けられているということは、本願発明の装置を手に持って走査ヘッドの先端をバーコード記号から離れた位置でバーコード記号に向けて使用し、かつ、走査ヘッドの射出口から射出されるレーザ光がバーコード記号に当たるのを使用者が視認しながら操作を行うために必要な条件であるが、これ自体は、本願発明の技術的思想を表現するための十分条件ということはできず、上記した構成要件(k)中後半に記載された部分とを組み合わせることによって初めて、本願発明の特徴を的確に表現できるものである。

上記のとおりであるから、本願の特許請求の範囲第1項の記載においては、「手に持って」、「視認しながら」及び「保持して」という用語は、それぞれ単独で取り上げられるべき性質のものではない。それにもかかわらず、審決は、「人による使用形態の表現である」という理由のみにより、これらを他の構成要件から切り離し、除外して、本願発明の要旨を認定したものであって、本願発明の技術的思想を歪曲するものであり、このような解釈は許されない。

<2> 本願の特許請求の範囲第1項の構成要件(a)には、本件バーコード読み取り装置が手持ち式であること、構成要件(d)には、外部に射出されたレーザ光が射出口から外方に間隔をもった位置で合焦させられること、及び、バーコード記号がレーザ走査ヘッドの外部に離れて置かれていること、並びに、構成要件(k)の前半には、光ビームの検出手段がレーザ光の射出方向にほぼ沿った方向で走査ヘッドに到達する光ビームを検出する位置に置かれていることは記載されているが、このような構成要素の記載からは、本願発明の装置が走査ヘッドを手に持って射出口をバーコード記号に向け、射出されるレーザ光がバーコード記号に当たるのを視認しながら、該バーコード記号の走査を行うような各構成要素の機能的な配置関係、具体的には、イ.走査ヘッドのハンドル部を手で把持して走査ヘッドの射出口をバーコード記号に向けることができるような、該ハンドル部と該射出口との配置関係、ロ.通常の姿勢での走査において、走査ヘッドの射出口から射出されるレーザ光がバーコード記号に当たるのを視認することできるような、該走査ヘッドと該レーザ光の光路との配置関係、ハ.走査ヘッドの射出口から射出されるレーザ光がバーコード記号に当たるのを視認することができる位置でバーコード記号の走査を行うことができるような、該射出口と走査手段とレーザ光の光路との配置関係が示されていない。

本願発明が「物の発明」であることはいうまでもないが、発明の本質を当業者が的確に理解できるように記載することが明細書の目的である以上、「物の発明」であっても、本件のように、材料や素材を列挙しただけでは構成物の機能的意味関係を明らかにすることが事実上不可能である場合には、本願出願人が行ったように、装置の使用方法と結合させて構成要素を記載するほかないのである。しかして、本願の特許請求の範囲第1項の構成要件(k)後半の記載は、本願発明の基本的な特徴に基づく各構成要素の機能的な配置関係を明らかにしており、この意味において、使用方法そのものを記載したものではなく、本願発明の構成を規定するものに他ならない。

(2)  引用例1第2図の発明の誤認と相違点<1>の認定の誤り及び相違点の看過(取消事由2)

<1> 審決は、相違点<1>の認定において、「引用例1第2図の発明では、走査ヘッドから比較的近い位置に置かれたバーコードにレーザ光を当てており」としているが、誤りである。

引用例1(甲第5号証の1・2)の第2図(別紙図面第2図)には、走査ヘッドのレーザ光の射出口がバーコード1から幾分浮いた状態で図示されているが、これをもって該装置がバーコードから離れた位置で読み取りを行うものであると理解するのは適当でない。すなわち、引用例1において、第2図の装置と第4図(別紙図面第4図参照)の装置は、レーザ光発振器がカバー内にあるかどうかの違いしかないと理解されるところ、第4図の装置では、レーザ光の射出口である光学走査装置100の開口端33をバーコード1を有する部材の上に置くことが明瞭に説明されている(甲第5号証の2第8頁17行ないし20行)。そして、第4図では、レーザ光射出のための開口を表示すると理解される横方向の短い実線よりさらに下方に、バーコードを有する部材に端が達するように、縦方向の実線が示されている。引用例1では、第2図の構造は従来技術として言及されているだけで、その詳細な構造についての説明はないが、基本的な構成は第4図の構造と同じであると理解すべきである。したがって、引用例1第2図の発明は、走査ヘッドの先端をバーコード記号に接触させてバーコードの読み取りを行うものと解するのが合理的であり、引用例1の第2図には、走査ヘッドのレーザ光射出口をバーコード記号から離して置いた状態で読み取りを行う構成は示されていないと理解すべきである。

また、仮に走査ヘッドの先端とバーコード記号との間隔が引用例1の第2図に記載のとおりであるとしても、走査ヘッドの先端をバーコード記号に極めて接近した位置においてバーコードの読み取りを行うものであることは間違いないから、バーコード読み取り装置をバーコード記号から離れた位置で操作しながらバーコード記号の確実な読み取りを行うという本願発明の技術思想は何ら開示されていないし、示唆もされていない。

<2> 本願発明では、走査ヘッドを商品に付されたバーコード記号から離れた位置に保持してバーコード記号の読み取りを行い、「検出手段は、バーコード記号により反射され走査ヘッドの射出口から射出されるレーザ光の射出方向にほぼ沿った方向で走査ヘッドに到達する光ビームを検出する位置に設けられ」(構成要件(k)の前半部分)、「走査ヘッドを手に持って射出口をバーコード記号に向け射出口から射出されるレーザ光がバーコード記号に当たるのを視認しながらバーコード記号の走査を行うようになっ(ている)」(構成要件(k)の後半部分)。その結果、本願発明に係る装置によれば、読み取る必要のあるバーコード記号を付した商品が不規則に置かれていようと、高く積み重ねられていようと、びんの表面のような筒状であっても、簡単かつ確実にバーコード記号の読み取りを行うことができる。

これに対し、引用例1第2図の発明では、検出手段は、バーコード記号により反射され走査ヘッドの射出口から射出されるレーザ光の射出方向に角度を有する方向で走査ヘッドに到達する光ビームを検出する位置に設けられており、走査ヘッドの先端をバーコード記号に当ててバーコード記号の読み取りを行う必要がある。その結果、装置の用途に制限が存在する。仮に、引用例1の第2図は、走査ヘッドの先端をバーコード記号から浮かして読み取りを行う構成を示していると解釈されるとしても、走査ヘッドはバーコード記号に極めて接近して置かれるものであるから、本願発明とは著しく相違し、やはり装置の用途に制限が存在するものである。

審決は、本願発明と引用例1第2図の発明との上記相違点を看過した。

(3)  相違点<1>の判断の誤り(取消事由3)

審決が相違点<1>の判断に当たり示している周知技術中の引用例1第1図の例は、大型の定置式のバーコード読み取り装置の分野のものであり、甲第7、第8号証の各1・2記載のものは、定置式の装置がコンベア等で運ばれる移動物体に取り付けられたバーコード記号を読み取るものであって、手持ち式バーコード読み取り装置の分野のものではない。この分野では、審決がいうような周知技術は存在しない。

本願発明は、手持ち式のバーコード読み取り装置においては、読み取りのための光を射出する走査ヘッドの射出口をバーコード記号に実質的に接触させて配置することが、確実な読み取りのためには必須である、という本願出願当時の当業者の認識にとらわれず、走査ヘッドをバーコード記号から離して確実に読み取りを行うという課題を設定し、その課題を達成するために、読み取りのためのレーザ光がバーコード記号に当たるのを視認しながら読み取りを行うという新規な構成を得るに至ったものである。この課題と課題解決のための手段は、定置式のバーコード読み取り装置において、バーコード記号を装置本体の光線射出口から離して配置することが知られていたこととは関係がない。定置式の装置では、移動が困難な大型の物品上に付されたバーコード記号の読み取りは実質上不可能である。また、不規則に置かれた物品上に付されたバーコード記号の読み取り、又は、高く積まれた物品上に付されたバーコード記号の読み取りなどもそのままでは不可能である。すなわち、定置式のバーコード読み取り装置は、本願発明が解決しようとする課題を何一つ解決できないだけでなく、定置式の装置を開示する文献には、引用例を含めて、この課題についての示唆すらない。

したがって、引用例1の第1図を如何に参酌しても、また、審決が挙示する周知例を如何に参考にしても、引用例1第2図の発明から本願発明の着想が得られたとは到底考えられない。

第3  請求の原因に対する認否及び反論

1  請求の原因1ないし3は認める。同4は争う。審決の認定、判断は正当であって、原告主張の誤りはない。

2  反論

(1)  取消事由1について

本願発明は物に係る発明である。

本願の特許請求の範囲第1項の構成要件(k)後半の記載は、「手持ち式バーコード読み取り装置の人による使用形態の表現」であって、装置の使用方法に他ならず、装置の形状、構造を何も規定していないことは明らかである。

そして、原告が本願発明の目的、効果であると主張する、バーコード読み取り装置をバーコード記号から離れた位置で操作しながら確実な読み取りを行うことも、装置自体から得られるものでなく、装置の使用方法によって得られるものであることは明らかである。何故ならば、「手持ち式バーコード読み取り装置」と、該装置を使用する人の目と、「バーコード記号」の位置関係は、その使用状態によって変わるのであり、本願発明でも、ある位置関係ではレーザ光がバーコード記号に当たるのを使用者が視認できても、位置関係が1直線上であったり、「走査ヘッドの先端をバーコード記号に」「接近して置く」と、「読み取りに際し、バーコード記号が走査ヘッドによって隠されてしまうからレーザ光がバーコード記号に当たるのを使用者が視認することは不可能」になるからである。

バーコード読み取り装置をバーコード記号から離れた位置で操作しながら確実に読み取りを行うことが発明の目的、効果であり、構成要件(k)項後半が発明の構成であると認められるのは、その発明が方法の発明である場合に限られる。

したがって、本願発明の要旨についての審決の認定に誤りはない。

(2)  取消事由2について

審決が、引用例1の第2図に示す装置について、「バーコード記号から離れた位置で読み取りを行うものである」と理解し、認定した事実はない。むしろ、審決は、相違点<1>について、「本願発明では、走査ヘッドから離れて置かれたバーコードにレーザ光を当て、・・・るのに対し、引用例1第2図の発明では、走査ヘッドから比較的近い位置に置かれたバーコードにレーザ光を当てており・・・」と認定しており、「バーコードから離れた位置で読み取りを行うもの」は本願発明であって、「第2図に示す装置」は、それと反対に「比較的近い位置」で読み取りを行うとしている。

したがって、原告の主張は審決の記載内容に反するものであって、失当である。

なお、審決は、引用例1の第2図を従来例として、第4図の構造とは直接関係なく、「引用例1第2図の発明では、走査ヘッドから比較的近い位置に置かれたバーコードにレーザ光を当てており」と認定しており、正当である。

(3)  取消事由3について

原告の主張は、原告独自の本願発明の認定、及び、引用例1第2図の発明についての原告独自の解釈を前提とするものであり、この前提が当を得ないものであることは前記のとおりであるから、上記主張もまた誤りであるといわざるを得ない。

第4  証拠

本件記録中の書証目録記載のとおりであって、書証の成立はいずれも当事者間に争いがない。

理由

1  請求の原因1(特許庁における手続の経緯)、2(本願発明の特許請求の範囲第1項)、3(審決の理由の要点)、並びに、審決の理由の要点(2)<1>、<2>(引用例1及び2の各記載事項の認定)、(3)のうちの一致点(但し、(d)の点を除く。)及び相違点<2>の認定、(4)<2>(相違点<2>の判断)については、当事者間に争いがない。

2  そこで、原告主張の取消事由の当否について検討する。

(1)  取消事由1について

<1>  本願の特許請求の範囲第1項の記載によれば、本願発明が「手持ち式のバーコード読み取り装置」に係る「物の発明」であることは明らかである。

出願発明の新規性・進歩性を判断する場合の基準となる発明の要旨は、原則として、願書に添付した明細書の特許請求の範囲の記載に基づいて認定すべきであるところ、特許請求の範囲には、「発明の構成に欠くことのできない事項のみ」を記載すべきであるから(昭和60年法律第41号による特許法36条4項)、「物の発明」において、特許請求の範囲に当該物の構成を規定するについて必須でない事項が含まれている場合には、これを除外してその要旨を認定すべきである。

本願の特許請求の範囲第1項の構成要件(k)後半の「前記走査ヘッドを手に持って前記射出口をバーコード記号に向け前記射出口から射出されるレーザ光がバーコード記号に当たるのを視認しながら該バーコード記号の走査を行うようになった」との記載、及び「前記走査ヘッドを前記バーコード記号から離れた位置に保持してバーコード記号の読み取りを行うようになった」との記載は、使用者が、「走査ヘッドを手に持って」、「射出口をバーコードに向け」、「レーザ光がバーコード記号に当たるのを視認しながら」バーコード記号の走査を行うという、また、「走査ヘッドをバーコード記号から離れた位置に保持して」バーコード記号の読み取りを行うという、使用者の動作そのものを表現したものであり、上記各記載は、本願発明に係る「手持ち式バーコード読み取り装置」の使用方法そのものを記載したものというべきである。そして、上記各記載によって、本願発明に係る「手持ち式バーコード読み取り装置」の形状、構造が特定されるものでもなく、上記各記載は上記装置自体の構成を規定するについて必須のものとは認められない。

<2>  原告は、本願発明の基本的な特徴は、手持ち式のバーコード読み取り装置であること、当該装置を手に持って走査ヘッドの先端をバーコード記号から離れた位置でバーコード記号に向けて使用することができること、及び、走査ヘッドの射出口から射出されるレーザ光がバーコードに当たるのを使用者が視認しながら操作を行うことができることにあるところ、本願の特許請求の範囲第1項の構成要件(a)は、構成要件(k)後半の上記記載と組み合わされて初めて、本願発明の技術的思想の表現として意味を持つようになるものであり、また、構成要件(k)前半の記載(「前記検出手段は、バーコード記号により反射され前記走査ヘッドの前記射出口から射出されるレーザ光の射出方向にほぼ沿った方向で前記走査ヘッドに到達する光ビームを検出する位置に設けられ」との記載)自体は、本願発明の技術的思想を表現するための十分条件ということができず、構成要件(k)後半の上記記載とを組み合わせることによって初めて、本願発明の特徴を的確に表現できるものであって、本願の特許請求の範囲第1項の記載においては、「手に持って」、「視認しながら」及び「保持して」という用語は、それぞれ単独に取り上げられるべき性質のものではない旨主張する。

原告が主張する本願発明の特徴ないし技術的思想とは、要するに、使用者が、走査ヘッドのハンドル部を手で把持して、走査ヘッドの射出口をバーコード記号から離れた位置でバーコード記号に向けて使用し、走査ヘッドの射出口から射出されるレーザ光がバーコード記号に当たるのを視認しながら、バーコード記号の走査を行うことができるという点にあるものと解されるが、その内容は、本願の特許請求の範囲第1項の構成要件(k)後半の「前記走査ヘッドを手に持って前記射出口をバーコード記号に向け前記射出口から射出されるレーザ光がバーコード記号に当たるのを視認しながら該バーコード記号の走査を行うようになった」との記載、及び「前記走査ヘッドを前記バーコード記号から離れた位置に保持してバーコード記号の読み取りを行うようになった」との記載に対応する、本願発明に係る「手持ち式バーコード読み取り装置」の使用者によるバーコード読み取り方法そのものであり、上記各記載が上記装置自体の構成を規定するについて必須のものとは認められず、本願発明の要旨から除外されるべきものである以上、上記各記載内容を取り込んで、これを本願発明の特徴ないし技術的思想とする原告の主張は失当というべきであり、したがって、原告の主張する上記事項に本願発明の特徴ないし技術的思想が存することを前提とする原告のその余の主張も失当である。

また原告は、本願の特許請求の範囲第1項の構成要件(a)、構成要件(d)、及び構成要件(k)前半の各記載からは、本願発明の装置が走査ヘッドを手に持って射出口をバーコード記号に向け、射出されるレーザ光がバーコード記号に当たるのを視認しながら、該バーコード記号の走査を行うような各構成要素の機能的な配置関係、具体的には、イ.走査ヘッドのハンドル部を手で把持して走査ヘッドの射出口をバーコード記号に向けることができるような、該ハンドル部と該射出口との配置関係、ロ.通常の姿勢での走査において、走査ヘッドの射出口から射出されるレーザ光がバーコード記号に当たるのを視認することできるような、該走査ヘッドと該レーザ光の光路との配置関係、ハ.走査ヘッドの射出口から射出されるレーザ光がバーコード記号に当たるのを視認することができる位置でバーコード記号の走査を行うことができるような、該射出口と走査手段とレーザ光の光路との配置関係が示されていないものであり、「物の発明」であっても、本件のように、材料や素材を列挙しただけでは構成物の機能的意味関係を明らかにすることが事実上不可能である場合には、装置の使用方法と結合させて構成要素を記載する他ないのであって、本願の特許請求の範囲第1項の構成要件(k)後半の記載は、本願発明の基本的な特徴に基づく各構成要素の機能的な配置関係を明らかにしており、この意味において、使用方法そのものを記載したものではなく、本願発明の構成を規定するものに他ならない旨主張する。

しかしながら、本願の特許請求の範囲第1項の構成要件(k)後半の記載、すなわち、「前記走査ヘッドを手に持って前記射出口をバーコード記号に向け前記射出口から射出されるレーザ光がバーコード記号に当たるのを視認しながら該バーコード記号の走査を行う」との記載は、本願発明に係る「手持ち式バーコード読み取り装置」の人による使用形態を表現するものであり、上記イ.におけるハンドル部と射出口と配置関係、上記ロ.における走査ヘッドとレーザ光の光路との配置関係、ハ.における射出口と走査手段とレーザ光の光路との配置関係を明らかにしているものとは認められない。また、「物の発明」においても、物の構成を規定するのに必要な限りにおいて、発明の構成を方法的に記載することも許されないわけではないが、上記構成要件(k)後半の記載は本願発明に係る「手持ち式バーコード装置」の使用方法そのものを記載したものであって、方法的に記載したものとは認められない。

したがって、原告の上記主張は採用できない。

<3>  上記のとおりであって、本願発明の要旨についての審決の認定に誤りはなく、取消事由1は理由がない。

(2)  取消事由2について

<1>  引用例1(甲第5号証の1・2)の第2図(別紙図面第2図)には、走査ヘッドの先端(レーザ光の射出口)がバーコード1から幾分浮いた状態の光学走査装置が図示されていることが認められるから、審決が、相違点<1>の認定において、「引用例1第2図の発明では、走査ヘッドから比較的近い位置に置かれたバーコードにレーザ光を当てており、」とした点に誤りはないものと認められる。

<2>  原告は、引用例1の第2図の装置と第4図の装置とはレーザ光発振器がカバー内にあるかどうかの違いしかなく、基本的な構成は同じであると理解されるところ、第4図の装置では、レーザ光の射出口である光学走査装置100の開口端33をバーコード1を有する部材の上に置くことが明瞭に説明されており、第4図では、レーザ光射出のための開口を表示する横方向の短い実線よりさらに下方に、バーコードを有する部材に端が達するように、縦方向の実線が示されていることから、引用例1第2図の発明は、走査ヘッドの先端をバーコード記号に接触させてバーコードの読み取りを行うものと解するのが合理的であり、引用例1の第2図には、走査ヘッドのレーザ光射出口をバーコード記号から離して置いた状態で読み取りを行う構成は示されていないと理解すべきである旨主張する。

引用例1には、引用例1の発明の実施例を示す第4図に関して、「小型・軽量で手で持てる光学走査装置100の部分ができるので、開口端33をバーコード1を有する部材の上に置くだけでバーコードには非接触で何十回も走査できる」(甲第5号証の2第8頁17行ないし20行)と記載されていることが認められ、また、第4図には原告指摘の実線が表示されていることが認められるが、引用例1の第2図に示された光学走査装置には、第4図に示されるような開口端33を有するカバー40に相当する構成がなく、また、第2図には、走査ヘッドのレーザ光射出口がバーコード1から幾分浮いた状態で図示されているから、引用例1第2図の発明では、走査ヘッドのレーザ光射出口とバーコード1とが間隔をあけて読み取りを行うものと認めるのが相当であって、原告の上記主張は採用できない。

また原告は、仮に走査ヘッドの先端とバーコード記号との間隔が引用例1の第2図に記載のとおりであるとしても、走査ヘッドの先端をバーコード記号に極めて接近した位置においてバーコードの読み取りを行うものであることは間違いないから、バーコード読み取り装置をバーコード記号から離れた位置で操作しながらバーコード記号の確実な読み取りを行うという本願発明の技術思想は何ら開示・示唆されていない旨主張するが、引用例1には、引用例1第2図の発明において、走査ヘッドとバーコードの間隔が極めて接近していることを肯認すべき記載ないし示唆はなく、上記主張は採用できない。

更に原告は、本願発明では、走査ヘッドを商品に付されたバーコード記号から離れた位置に保持してバーコード記号の読み取りを行い、「検出手段は、バーコード記号により反射され走査ヘッドの射出口から射出されるレーザ光の射出方向にほぼ沿った方向で走査ヘッドに到達する光ビームを検出する位置に設けられ」、「走査ヘッドを手に持って射出口をバーコード記号に向け射出口から射出されるレーザ光がバーコード記号に当たるのを視認しながらバーコード記号の走査を行うようになっている」結果、本願発明に係る装置によれば、読み取る必要のあるバーコード記号を付した商品が不規則に置かれていようと、高く積み重ねられていようと、びんの表面のような筒状であっても、簡単かつ確実にバーコード記号の読み取りを行うことができるのに対し、引用例1第2図の発明では、検出手段が、バーコード記号により反射され走査ヘッドの射出口から射出されるレーザ光の射出方向に角度を有する方向で走査ヘッドに到達する光ビームを検出する位置に設けられており、走査ヘッドの先端をバーコード記号に当ててあるいは極めて接近してバーコード記号の読み取りを行う必要がある結果、装置の用途に制限が存在するという相違点があるにもかかわらず、審決はこの点を看過した旨主張するが、本願の特許請求の範囲第1項の構成要件(k)後半の記載は本願発明の要旨とは認められないから、原告の上記主張は採用できない。

<3>  上記のとおりであって、取消事由2は理由がない。

(3)  取消事由3について

<1>  引用例1の第1図、及び第1図に示された装置において、開口から所定間隔離れた位置にあるバーコード(1)に照射光を照射し、照射光に対して平行な反射光を検出していると認められること(この点は当事者間に争いがない。)、並びに、甲第7号証1・2(実願昭50-27494号(実開昭51-108527号)のマイクロフィルム)、甲第8号証の1・2(実願昭50-27495号(実開昭51-108528号)のマイクロフィルム)によれば、走査ヘッドから離れて置かれたバーコードにレーザ光を当て、走査ヘッドから射出されるレーザ光に対してほぼ平行な方向に走査ヘッドに到達する光ビームを検出することは、本願出願前に周知の事項であると認められる。

したがって、走査ヘッドから離れた位置のバーコードにレーザ光を当て、引用例1第2図の発明において、走査ヘッドの外部に離れて置かれたバーコードにレーザ光を当て、走査ヘッドから射出されるレーザ光に対してほぼ平行な方向に走査ヘッドに到達する光ビームを検出するように検出手段を支持することは当業者が容易に想到し得ることであると認められる。

<2>  原告は、引用例1第1図の例は大型の定置式のバーコード読み取り装置の分野のものであり、甲第7、第8号証の各1・2は定置式の装置がコンベア等で運ばれる移動物体に取り付けられたバーコード記号を読み取るものであって、手持ち式バーコード読み取り装置の分野のものではなく、この分野では、審決がいうような周知技術は存在しないこと、本願発明は、走査ヘッドをバーコード記号から離して確実に読み取りを行うという課題を設定し、その課題を達成するために、読み取りのためのレーザ光がバーコード記号に当たるのを視認しながら読み取りを行うという新規な構成を得るに至ったものであること、定置式のバーコード読み取り装置は、本願発明が解決しようとする課題を何一つ解決できないだけでなく、定置式の装置を開示する文献には、引用例を含めて、この課題についての示唆すらないことなどを理由として、引用例1の第1図を如何に参酌しても、また、審決で引用する周知例を如何に参考にしても、引用例1第2図の発明から本願発明の着想が得られたとは到底考えられない旨主張する。

しかしながら、レーザ光がバーコード記号に当たるのを視認しながら読み取りを行うという点は本願発明における必須の構成とは認められないこと、上記<1>に認定の周知技術が定置式のバーコード読み取り装置に関するものであるとしても、上記周知技術を手持ち式バーコード読み取りに適用することに格別困難な点は存しないものと認められることからして、原告の上記主張は採用できない。

<3>  上記のとおりであって、相違点<1>についての審決の判断に誤りはなく、取消事由3は理由がない。

3  以上のとおりであって、原告主張の取消事由はいずれも理由がなく、他に審決を取り消すべき事由は認められない。

よって、原告の本訴請求は失当であるから棄却することとし、訴訟費用の負担及び上告のための附加期間の付与について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条、158条2項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 伊藤博 裁判官 濵崎浩一 裁判官 市川正巳)

別紙図面

<省略>

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